
こんにちは!「鉄道車両・逸話探訪」へようこそ。
ここでは、私たちが普段何気なく見上げる、あるいは利用する鉄道車両の歴史の裏側に隠された、ちょっとディープで面白い「なぜ?」に迫ります。
今回のテーマは、名古屋鉄道(名鉄)の歴史を語る上で欠かせない名車、「名鉄3700系(2代目)」です。
名鉄といえば、真っ赤な「スカーレット」の車体や、特急から普通まで縦横無尽に駆け抜けるダイナミックな運用が思い浮かぶことでしょう。その名鉄において、昭和の近代化を支えながら、数奇な運命をたどった「HL車」の代名詞・3700系(2代)。この車両が内包していた驚きの逸話と、隠された謎に迫ります。
1. そもそも「2代目」とは?戦後レトロから生まれ変わった系譜
鉄道ファンなら「3700系」と聞くと、1997年に登場した4両編成の赤いVVVFインバータ制御車(現在の3500系グループに近い車両)を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、今回スポットを当てるのは、それよりはるかに古い1957(昭和32)年に登場した車体更新車(通称:HL車)の「2代目」です。
ちなみに「初代」は、戦後レトロな時代の名残りとして国鉄63系を割り当てられたグループ(1946〜1949年在籍)を指すため、自社での本格的な設計・車体更新によって誕生した本形式が「2代目」として長く愛されました。
なぜ「車体更新」が必要だったのか?
1950年代半ば、日本の鉄道界は大きな転換期を迎えていました。
1951年に発生した桜木町事故をはじめとする相次ぐ車両火災を受け、監督官庁から「木造車体の防火対策を早急におこなうこと」という厳しい通達が出されたのです。
当時の名鉄には、木造車体の古い車両(旧型車)が数多く残っていました。これらは老朽化が進み、企業イメージの面でも早急な近代化が求められていました。
しかし、当時の鉄道会社にとって、すべてを全くの新車で置き換えるほどの莫大な予算はありません。「車体は古いが、モーターや主要な機器類はまだ十分に使える」—
そこで名鉄が導き出した答えが、「古い車両から主要機器を外し、全く新しい全金属製の軽量車体を新造して組み合わせる」という、いわゆる車体更新(リフレッシュ)作戦でした。
こうして、雑多な生い立ちを持つ旧型車の心臓部を移植され、日本車輌製造で生まれ変わったのが、名鉄3700系(2代)だったのです。
2. 吊り掛け駆動の重奏:懐かしの「HL制御」と独特の走行音
3700系を語る上で絶対に外せないキーワードが、「HL制御」と「吊り掛け駆動方式」です。
HL制御(間接非自動加速制御)の仕組み
現代の電車は、マスコン(運転台のノッチ)を操作すれば、コンピューターや自動進段装置が滑らかにモーターの加速を調整してくれます。
しかし、HL制御は、運転士が手動で主幹制御器(マスター・コントローラー)のハンドルを一つずつ進めて回路を切り替え、モーターへ流す電気を調整する仕組みでした。
電磁空気単位スイッチ式という方式を用いており、運転士が「ガチャン、ガチャン」とノッチを進めるたびに、床下からリレーやスイッチの重厚な作動音が響く、まさに「生きた機械を操る」ロマンあふれるシステムでした。
吊り掛けサウンドの哀愁
モーターの動力を直接歯車に伝える「吊り掛け駆動方式」は、現在の近代的なインバータ車とは比較にならないほど、文字通り「爆音」を奏でました。
平坦線での最高速度は85km/h程度。決して俊足のスターではありませんでしたが、重いモーターを唸らせながら、名古屋本線や各支線のローカル運用、さらにはラッシュ時には2本を繋いだ4両編成で急行運用にも入り、名鉄の「足」として泥臭く働き続けたのです。
3. 車体に隠された「なぜ?」:17m級・2扉のコンパクトボディ
3700系(2代)の車体を観察すると、いくつかの大きな特徴(そして「なぜ?」)に気づきます。
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全長17m級の小ぶりな車体
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片側2箇所の客用扉
なぜ車体が少し短めなのか?
現代の通勤電車は20m級が主流ですが、3700系をはじめとする当時のHL更新車は17m級で設計されました。
これは、種車となった古い木造車の台枠や寸法的な制約を引き継いだためでもありますが、急カーブが多い名鉄のローカル線や、歴史ある古い規格のホームに対応するためという実用的な理由もありました。
当初はロングシート、のちにクロスシートへ?
登場当初の車内は通勤・通学輸送を見据えてロングシートが主でしたが、時代や運用の変化に伴い、一部の車両はクロスシート(あるいはセミクロスシート)へと改造されました。
支線区の「特急」として運用された時期もあり、短い車体の中に、当時の名鉄の「柔軟なおもてなしの心」がギュッと凝縮されていました。
この3700系を皮切りに、後継として両開き扉や高運転台を採用した「3730系」「3770系」「3780系(冷房化車)」へと連なる“名鉄HL車・車体更新ファミリー”が形成され、総勢138両の一大勢力となって名鉄の黄金期を支えていくことになります。
4. 瀬戸内海を渡ったセカンドライフ:高松琴平電気鉄道への譲渡劇
名鉄3700系(2代)にまつわる最もドラマチックな逸話といえば、四国・香川県への大規模な譲渡劇でしょう。
新車の増備やさらなる近代化の波に押され、第一線を退くことになった3700系のグループの一部(主電動機を換装していた編成など)は、1968年と1973年の2度にわたり、海を越えて高松琴平電気鉄道(琴電)へ嫁ぐことになりました。
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琴電での形式:1020形
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琴平線などの主要なローカル輸送を担うため、讃岐の地へと活躍の場を移しました。
愛知の赤いスカーレットの塗装から、琴電の落ち着いたカラーリング(あるいは独自の塗装)へと装いを変え、瀬戸内海の穏やかな風を受けながら余生を過ごしたのです。
母体となった名鉄での役目を終えた後も、遠く離れた地で大切に使い続けられたことは、もともと頑丈な全金属製車体として生まれ変わり、丁寧なメンテナンスを受けていた3700系のポテンシャルの高さゆえでした。
本家・名鉄では1991年までに全車が姿を消しましたが、その魂は海を渡った先でも長く生き続けたのでした。
5. まとめ:令和の今、私たちが受け継ぐべき「ものづくりの知恵」
今回は、名鉄3700系(2代目)が歩んだ数奇な歴史と、その車体に隠された逸話をご紹介しました。
【今回のまとめ】
防火対策とコスト抑制のジレンマから生まれた「車体更新車」の傑作。
HL制御と吊り掛け駆動が織りなす、乗務員の技量が試されるアナログなメカニズム。
限られた条件の中で知恵を絞った17m級・2扉のコンパクトな美学。
引退後は海を越え、高松琴平電気鉄道(琴電1020形)として第二の人生を歩んだドラマチックな歴史。
名鉄3700系(2代目)の魅力を自宅で!歴史を身近に感じる楽しみ方のご提案
さて、ここまで名鉄3700系(2代め)のドラマチックな歴史をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
「実車はもう本線を走っていないけれど、あの勇姿をもう一度、自分の手元で再現してみたい!」
そんなふうに思ったあなたにオススメなのが、鉄道模型(Nゲージ)で名鉄3700系(2代め)を再現する楽しみ方です!
鉄道コレクショで名鉄3700系(2代め)のNゲージ模型が発売されています。
あの17m級・2扉車が非常に細かく再現されているんですよ!
机の上にレールを敷いて、あの昭和を駆け抜けた名鉄3700系(2代め)を走らせれば、いつでもあなたの部屋が懐かしの名鉄線に早変わりします。
また、同じく鉄道コレクショから、四国へ渡った後の高松琴平電気鉄道(琴電)1020形の鉄道模型も発売されているのです。
当時の技術者さんたちの汗と涙の結晶に思いを馳せる時間は、鉄道ファンにとってまさに至福のひとときではないでしょうか?
現代の鉄道は、VVVFインバータ制御や省電力化、自動運転など、よりスマートで効率的なシステムが主流です。
しかし、昭和の時代に「使えるものは大切に活かし、知恵と技術で美しく蘇らせる」というアプローチで作られた3700系のような車両には、現代の私たちがハッとさせられるような「ものづくりの原点」と、どこか人間臭い温かみが宿っています。
街で見かける最新の赤い電車たちの足元にも、かつてこうした名もなき名車たちが繋いできた確かな歴史のバトンが存在しているのです。
あなたの地元の鉄道や、お気に入りの車両にも、こうした隠された「なぜ?」の物語は眠っていませんか?
次回の「鉄道車両・逸話探訪」でも、思わず誰かに話したくなるディープな鉄道の世界へご案内します。どうぞお楽しみに!